ある呪術師の呪い

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 呪術師は風のように舞い戻り、丘の上から、湿地帯を見下ろす。  青々と茂る森、曲がりくねったコンゴ川。幼い頃から、同じく呪術師だった父と共に何年も眺めてきた景色だ。  だが、もうこれも見納めだ。  夕陽が地平線にゆっくりと沈んでいき、どんどん闇が広がっていく。  昼間は人間の時間で、夜は魔物や獣の時間になる。普通の人間は危険なので夜に出歩けないが、呪術師は別だ。 「わかっていたんだよなあ、こうなることはさ……でも、歴史は変えられないんだ。ああ言うだけが、精一杯だった……」  言い訳がましく呟き、悔しそうに目を閉じた。何が起こるかわかっていても、手出しができない。まるで呪術師自身にかけられた呪いだ。  変わってしまった故郷。  欲に塗れた浅ましい獣に豹変した国王。  恐ろしく頭の切れる、黒い思惑を持った白い人間たち。  国も、人も、変わってしまう。こうも簡単に、壊されていく。  俺もこのままの姿ではいられないのだろう。  呪術師が深くため息を()くと、浅黒い肌が波打ち、太い骨が曲がり、厚い唇から鋭い牙が生えてきた。 「もう俺はここに戻らない。戻れないんだ」  それでも、いつかまたここで、森を眺めたい。  艶々とした毛並みの黒豹が、寂しそうに一鳴きすると、深い森の中へ入っていった。    何百年の後に呪術師の家だった丘へ、一人の考古学者がやってきた。  土を掘り返すと、そこにはたくさんの布や、鉱石、鉄器や象牙で作られた仮面などの出土品が見つかり、謎に包まれていた歴史がほんの少し紐解かれたようだ。
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