ある呪術師の呪い

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 呪術師たちはいろんな事ができた。  例えば、動物たちと話せるし、嫌がらせをしてくる部族に呪いをかけて大人しくさせることもできるし、豊作や狩の前の(まじな)いも担うし、子宝に恵まれるように祈祷したり、怪我や病気を治したりなど。  現代でいう医者の役割を担いつつ、祈祷師としてなんでも解決してくれた。  この呪術師は特に腕が良かった。若いながらに豊富に知識を持ち、立ち所に問題を解決してくれるので、様々な部族の人間たちから強く尊敬されていた。  当時は貨幣の代わりに物々交換で交渉が行われていて、呪術師は手触りの良い絹の布や、キャッサバ芋、麦、各々の部族の特産品などを要求した。 なかなか高価な条件だったが、頼めば必ずなんとかしてくれるので、ひっきりなしに依頼がきた。 「呪術師さんはどうしてそんなに色んな物を集めているの?」  ある村の子供が不思議に思って尋ねると、 「必要になる時が来るから、今のうちに集めているだけさ」 とだけ答えた。  呪術師は報酬で得た物で、特に鉄器や衣服などを丁寧に扱い、家の地下へ仕舞い込んでいた。  実は呪術師には、この大陸に、ここに住む人々に何が起きるか『見えて』いた。  その未来がやって来るのを恐れ、毎朝丘の上から湿地を眺めてホッとするのだった。
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