ある呪術師の呪い

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 ところが、とうとう呪術師の恐れていた未来が来てしまった。  西洋から船が訪れたのだ。  この大陸に上陸したくてウズウズしていただけだったが、造船技術が向上し、荒波に耐え長距離を突き進む事が可能な船が多く完成した。  恐れを知らず、航海の旅へ出る者たちによって、船の道はどんどん開かれていった。  この船は最初、大陸の北から侵略し、そこに基盤をある程度作ると今度は西側から入り込み、小型の船で曲がりくねった河を登って湿地帯にやってきた。  色の黒い自分達と違って、色が白く髪が紅い西洋の人間が闊歩する様は見慣れない。  この白い人間は貿易をしに来たようで、初めは等価交換でやり取りができた。 ところが、そのうち悪魔のような取引に変貌し始めたのだ。  人が少なくなってきた湿地帯を丘から眺めていた呪術師は、ある日国王の元に呼ばれた。  以前は猛々しく勇敢な王だったのだが、最近は貿易で私腹を肥やし、身につける物も西洋風になっている。 国王の身を守る為にいる兵士の他に、あの白い人間が立っている。あからさまにこちらをバカにした目で見つめていた。  (こうべ)をたれよ、と命じられても、呪術師は顔を(しか)めたまま突っ立っていた。  兵士が呪術師を怒鳴りつけるが、国王はまあ良い、と手を上げた。 「呪術師よ、お主に相談したい事があってな」 「捕虜を売るのは得策ではないと俺は思うけどな」  国王が聞こうとしていた事をズバッと言い当てた。  国王はかなり動揺して、しかし……とまだ続けようとするが、 「ハッキリ言ってやろうか?目先の欲に釣られて自国の人間を奴隷としてそいつらに売るのをやめろ。このままだと、この先何十年なんて話じゃない。何百年も俺たちの子孫が苦しむことになるぞ」 と冷たく言う。
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