ある呪術師の呪い

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 実は、今この国は全てにおいて物不足に陥っていた。元々、何もかもを人の手で作り上げる国だ。白い人間たちはあっという間に買い上げてしまったので、もう売る物がない。  だが、贅沢を覚えてしまった国王はなんとしてでも商売を続けたい。  そこで白い人間から提案されたのは、国王が元々捕虜として捕らえていた部族の人々を、労働力として西洋の国へ売る事だった。  初めはただの労働力だったのが、さらに欲を出した国王によって多くの部族を襲撃し捕虜にして、苛烈な人身売買が行われ始めたのだ。  呪術師の目が鋭くギラついている。国王が汗をかきながら黙っていると、白い人間が痺れを切らしたように、 『彼に何か言われたのか?』 と尋ねた。彼はどうやらこちらの言葉がわからないらしい。そのまま意地の悪い顔で続けている。 『呪術師って言ってもどうせ大したことの無いインチキなんでしょう?我々の商売のこともわかっておらんのですよ。こいつのことなど無視で良いのです。 陛下が捕虜を売ってくださるなら、今なら倍の値段をつけましょう……』  国王の顔に迷いが生まれる。呪術師は舌打ちをし、 『わかってんだよ。失礼なこと言いやがって!』 と怒鳴った。  いきなり同じ言葉を話されて白い人間はギョッと固まった。 『な、なんで……』 『あんたは知らんようだから教えてやる。呪術師ってのは動物の言葉もわかるんだ。同じ人間ならもっと素早く理解できるんだよ』  白い人間は頬をカッと赤くする。下に見ていた者にと主張されたのが屈辱だったようだ。  呪術師は長い指で指差した。 『俺たちの大陸から人間を奴隷として買い上げたり、俺たちの神を悪魔と言い張って宗教を押し付けて拉致したり、お前らのやっていることの方がよっぽど悪魔だ。 大陸を変え、文化を握りつぶし、人の幸せを奪った報いを、何百年も後になっても背負い続けろ!』  呪術師の低く通る声が、呪いのように白い人間に纏わりついた。白い人間は途端に激昂し、仲間に呪術師を捕らえるよう命令した。  ところが、服を掴んだ瞬間、呪術師の体が消え失せ、服や装飾品のみが残った。  呪術師が煙のように消えてしまったので、背筋がゾッと寒くなるが、 『探せ!絶対に捕らえて打ち据えろ‼︎』  王宮に怒り狂う声だけが残った。
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