平成元年十二月十六日

3/5
前へ
/11ページ
次へ
クラスに村上清くんという男子生徒がいた。今思えば私と同じ発達障害だった。私は軽度だけど清くんは中度くらい。 吃音でうまくしゃべることが出来ない。 なにを言われてもヘラヘラと笑っていて、頭を叩かれても、お腹を蹴られても、足をかけられ転ばされても、ヘラヘラと笑っている。 クラスでも格好のいじめの対象だった。 ♪清このヤロー、 ♪気色わりぃんだよー しまいにはきよしこの夜の替え歌を歌い出し、からかう始末。 だからクリスマスソングにいい思い出はない。クリスマスなんてなければいいのに。そうずっと思っていた。頼みの綱の担任はいない。入学式当日、 「六月から産休にはいります」 まさかの一言に保護者も生徒も唖然となった。学級主任が担任の代わりをしていたけど、注意するどころか一緒になって清くんをからかっていた。 いじめは悪いことかも知れないが、いじめられる側にそもそもの問題があるんだ。いいか、このクラスにはいじめ自体存在しない。分かったか、余計なことを言うなよ。悪いのはお前らなんだから。 あれから三十年以上過ぎたけど、いまだにこの言葉忘れることが出来ない。 「蝶子ママ、クリスマスの予定は?」 「そりゃあ、もちろん彼氏とデートだろう」 「ごめんなさいね。あーちゃんとデートする約束なの」 「え?」 初耳だったから驚いた。 「だってアタシ、あーちゃんラブだもの」 「ママとあーちゃんはまるで姉妹みたいだ」 「仲が良くて羨ましいよ」 「あら~~嬉しいこと言ってくれるじゃない。ありがとー」 蝶子ママが肩をそっと抱き締めてくれた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加