平成元年十二月十六日

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「あの……」 喫茶店に入ろうとしたら黒いスーツを着た若い女性に声を掛けられた。 女子大学の短期大学部の制服だと蝶子ママが教えてくれた。 「間違っていたらごめんなさい。あなた、井戸川亜子さんだよね?清と中学一年の時同級生だった。清は私の弟なの」 「え⁉」 「清、色々あってちょっと入院している。あ、でもたいしたことじゃないから安心して。清と同じ小学校出身の男子と女子に注意したら、あなたがイジメの対象になって聞いた。それで不登校になったって。全然知らなかった。清も学校が怖いって言って一時部屋に籠ってたから。親の転勤で別の中学校に転校することになった生田目さんって子が親とうちを訪ねてきてくれて。清に悪いことをしたって謝罪してくれたの。助けたら次は自分がイジメの対象になるから見て見ぬふりをするしかなかったって。亜子さん、弟の味方をしてくれてありがとう。それと、ごめんね。辛い思いをさせてしまって」 深々と頭を下げられ、どうしていいか分からなくて蝶子ママに助けを求めた。 「あーちゃんから清くんは優しくて思いやりのあるすごくいい子って聞いてるわ。村上さん、頭を上げて下さい」 蝶子ママが清くんのお姉さんの肩にそっと手を置いた。 「亜子さん、蝶子さん、いつになるか分からないけど清が退院したら一緒にクリスマスのイルミネーションを見ませんか?」 「はい。喜んで」 蝶子ママと声が見事にハモった。 「まるで本当の姉妹みたいですね」 「あら~~嬉しいこと言ってくれるじゃない。ありがとー」 蝶子ママがにこにこの笑顔になった。 でも、このときの約束が果たされることはなかった。
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