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五年後の十二月十六日
「蝶子ママ」
「寒い?」
「大丈夫です」
「寒いときは言ってね。遠慮しなくていはいわよ」
イルミネーションがなかまち夢通りを鮮やかに彩っていた。街はクリスマス一色だ。
五年近くずっと眠ったままだった清くんが息を引き取ったとお姉さんから連絡をもらったのは三日前のことだ。二十歳を迎える前にその短すぎる人生に幕を閉じたのだ。
当時の私は拒食症を患い体重が三十ニキロを切り、仕事を休職して入院していた。
原因は当時付き合っていた男性に、とどみたい、前カノの鴨ちゃんの方が良かった、ことあるごとに比べられ、無理なダイエットをした結果、拒食症になった。
鴨ちゃんこと鴨下さんはブラジル移民三世。エキゾチックで大人びていて、すらりとした身長と小顔でとても可愛らしい子だった。男性にモテモテで、取っ替え引っ替えいろんな男性と付き合っていた。
「そんなクズ男止めなさい。アタシと同じで男を見る目がないんだから」
蝶子ママに諭されようやく目が覚めた。
彼が好きなのは私じゃない。鴨ちゃんなんだ。私は鴨ちゃんの身代わり。そんなことにも気付かなかったなんて。恋は盲目とはよくいったものだ。
清くんのお通夜にどうしても参列したくて、主治医に外出させて欲しいと頼み込んだ。歩くことが困難なくらい痩せてしまい移動は主に車椅子。蝶子ママに押してもらいながら、駅裏にある教会に向かった。
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