1.出会い

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1.出会い

 その時、私は舞い上がっていた。卒業記念制作にぴったりの題材が見つかったのだ。  紅く色づき始めた葉を背景に、一匹のセミ。ちょっと寂しさもあるけれど、それでも、力づよい。  うん。良い画。我ながらうまく撮れていると思う。だから仕方が無いのだ。いつもなら絶対にしないようなことをしてしまったとしても。  セミの声が聞こえて、この構図を思いついた瞬間いてもたってもいられなくなった。居場所まで分かったらものだから、つい木に登ってしまったけれど、普段なら、絶対に後先を考えずに木に登るなんてしないのだ。絶対に。……たぶんだけど。  さて、と。どうしようかしら。  私は考える。私が置かれている状況が、仕方が無いことであろうとなかろうと、問題が起きていることには変わりは無いのだ。私はどうやって下りればいいのだろう。  木登りなんてしたことがなかった。だから、登ったはいいけど降り方がわからない。  唯一の救いは、自分がズボンをはいていることだ。なんとなく気分を変えてみたくて、久しぶりに履いてみただけだったが、助かった。  飛び降りる?  でも、それだとカメラを地面にぶつけてしまうかもしれない。それだけは何としても避けたかった。お年玉と小遣いをためてようやく今年手に入れたのだ。私の両親は、私が写真にはまっていることをよく思っていない。誕生日やクリスマスでもこんな高価なものを私に与えてくれるはずもなかった。
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