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2.季節外れのセミ
腹をくくった私に話しかけられた少年は、口をあけたまま固まっている。そのすきに畳みかける。
「あのね、これから君にカメラを投げるから、絶対受け取ってね!絶対よ。取り損なったら弁償だからねっ」
弁償は言い過ぎだろうか。まあ、私の覚悟を伝えるにはこれくらい言わなくちゃ。
大丈夫。大丈夫。不自然ではないはずだ。これが今日の「私」。彼にとっての「私」になる。
「え、でも、あなたは……」
ようやく少年が口を開く。とまどいつつも心配してくれているようだ。心配はありがたいが、もうそれどころではない。せっかく覚悟を決めたのだ。さっさと終わらせてしまわなければ、もう降りられない気がする。
「私は飛び降りるからいいのよ!はやくっ。足場不安定なの。着地の瞬間にカメラが地面に衝突とか嫌だもの」
とにかくカメラを受け取ってもらわないと。そう思って必死に言葉を並べる。何を言っているかなんてもうよく分からない。
カメラが彼の手に移った。しかし、彼はまた何か言っている。「なあに?」そう聞き返そうとしたのと、視界が大きく揺れたのはほぼ同時だった。
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