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「あの、でもなんであんなところにいたんですか?」
彼が尋ねてくる。そうだよね、気になって当然だと思う。不思議には思っているようだが言動を不自然には思っていないようだ。
「セミをね。撮っていたの」
私がそう答えると、彼はぽかんとしていた。何故そんなに不思議そうにするのだろう。
「カメラを持ったままでですか?」
彼にそう言われ、一瞬理解できなくて固まってしまった。カメラがないととれないじゃないの。
ああ、なるほど。彼の勘違いに気付いてしまった私は、思わず笑ってしまった。
セミを「捕ろうと」していたと思ったのね。
「ちがうわよー。セミの、写真を、撮っていたのよ。カメラを持って蝉捕りする訳ないじゃない」
証拠として、撮った写真を見せた。
「ほらこれ、よく撮れているでしょう?」
少年は食い入るようにカメラの液晶画面を見ている。そして、
「あの、すごくきれいだと思います。…詳しくは分からないけど」
とやはり控えめに感想を伝えてくれた。とてつもなくシンプルな感想だったけれど、何故か嬉しかった。
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