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「でも、なんでセミなんですか?」
彼から問われて、私は考える。なんといえばいいのだろう。鳴いていたから? 理由はいくらでも見つけられそうだけど、秋に鳴いているセミを見てみたかったから、かな。
……秋? 私はぴったりの答えを見つけて笑顔になる。
彼が、私と同じ理由でこの道を歩いていたのであれば,きっと反応するはず。期待をこめて私は口を開いた。
「それはね、今が秋だから。」
思った通り、彼は目を見開いて私を見ていた。
「だから、秋だからよ。もう秋なのに、セミが鳴いていたから。」
念押しのように繰り返して、様子をうかがう。
ああやっぱり、やっぱりそうだ。彼が探していたのも「これ」だったんだ。彼の顔をみて、確信する。「まさか同じ事を考えている人間がいるなんて」。これはそういう顔だ。
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