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そう思うと口が軽くなった。「私ね、秋になって鳴き続けているセミを見ると、頑張らなきゃ、って思うの。」とか「1匹になっても鳴いているセミって、絶対生きてやる!って言っているように思うの」とか聞かれていないことまで次々話してしまった。
思わず同意を求めて投げかけた「ねえ、きみもそう思わない?」という言葉には返事はもらえなかったし、別れ際まで彼は戸惑っていた様子だったけど構わなかった。
口と同じくらい軽くなった足取りで、私は家に帰る。なんていい日なのだろう。さっき撮ったセミも、この時期に他のセミを見つけたらこんな気持ちになるのだろうか。
どうせもう会わないのだから。
そう思っていたけれど、また会いたいな。会えるだろうか。
名前も、連絡先も知らないけれど、また会える。そんな気がしていた。
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