初夜

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初夜

「後悔していませんか?」  札幌駅北口すぐのタワーマンションの25階、西側の角部屋。ひとたびリビングに足を踏み入れれば、燦然と輝く札幌の夜景が視界いっぱいに広がった。 間取りは2LDKだと聞いている。ひとり暮らしをするには余りある広さと贅沢さだ。  一部屋余っているので自由に使ってください。そう提案されていたとおり、パウダールームの向かいにある部屋の前には段ボール箱が数箱積まれていた。 がらんとした暗がりに、つい昨日まで使っていたお気に入りのドレッサーが設置されている。ここがわたしに充てがわれた部屋というわけか。  結婚して新生活を始める──普通であれば浮き足立つに違いない展開だが、わたしと彼の間で交わされたやり取りは終始事務的で、ビジネスの延長のようだった。  七畳ほどの部屋に置かれている家具らしい家具は、ドレッサーと小さな本棚だけ。どちらもわたしが持ち込んだものだ。 ベッドは持っていくべきかと尋ねたら、「廃棄してください。処分料は負担します」と即答された。どうやら今夜からは、この人のベッドに潜り込むことになるらしい。 「後悔、とは?」 「僕の妻になったことです」  部屋が余っているのなら、寝室だって別でいいのに。無駄なものが一切置かれていないリビングをぐるりと見渡して、ばれないようにため息をついた。  白く毛足の長いラグの上にはガラス製の丸いローテーブル、その後ろに黒い革張りの三人掛けソファー。驚くことにテレビは見当たらない。テレビの代わりにこの景色を眺めているのだろうか。  バルコニーに続く掃き出し窓のすぐ側にL字型のデスクがあり、脇にはぎっしりと本が詰まった六段の棚が置かれている。仕事用スペースのようだ。  まるで生活感がなく、彼が忙しく行き来しているだろうと思われるのはデスクの周りのみ。白いフローリングの上には、髪の毛ひとつ落ちていない。
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