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「あなたは本当にいい顔をする。それも全部、計算なのか?」
「そん、な……こんなときに、計算なんて、できな……あ、あ、あぁっ」
「こんなに感じて、乱れて、喘いで──初夜だというのに、俺の妻はどうしようもなく厭らしい」
軽蔑するような眼差しに再び涙が込み上げたとき、耳元で「茉以子」と柔らかく囁かれた。心の奥と骨の髄が同時にきゅんとして、広く逞しい背中にそっと腕を回す。
「あんまり……酷く、しないでください。計算なんてしていないし、貴介さん以外に抱かれたりしません」
微かに残るピアス痕に彼の素顔を見た気がして、思わずそこを食んだ。貴介さん、と小さな声で吹き込むと、両肩を強く掴まれてシーツに縫いつけられる。
「き、すけさ……」
「困ったな。もっと酷くしてやりたい」
がっしりと太い腕に捕らえられ、思い切り腰を打ちつけられた。痛いくらいの大きな波はとてつもない快感に変わり、頭の中が白く霞んでいく。
気持ちいい。もう、なにも考えられないほどに。
目を開けると、苦しそうに顔を歪める貴介さんの姿。毎晩こうして抱かれるのだろうか。愛などないこの結婚が終わる、その日まで。
「わたし、なにか、怒らせるような、こと……あ、あ……きもち、い……っ」
「そう。茉以子はそうやって、ただ俺に抱かれて善がっていればいい」
「でも、酷くされるのは、」
「大丈夫。酷くしても、最高に悦くしてあげるから。──かわいいよ、茉以子」
うっすらと汗が浮かんだ額、ほつれた髪の束、むせ返りそうなムスクに混じるタバコと汗の匂い。不意打ちで繰り出されたセリフに浸る間もなく、獣のようにただ高みに向かって絡み合う。
柔らかな声で名前を呼ばないで。酷いと言うのなら、うんと酷くして、優しさなんて見せないで。
その裏を、あなたの本心を覗き見たくなってしまう。この結婚は、わたしたちが交わした秘密の契約。そこに本音など、お互いの気持ちなど、介在することはない──。
「あなたが達くところを見たい。夫の俺には隠さず、すべて見せて」
左手の薬指が鈍く光る。結婚初夜──「好き」も「愛してる」も「一生の約束」も交わすことのない、情欲のみが燃える冷たい夜。
わたしの心の中を、あなたに知られることはきっとない。どうか、この想いを伝えなければならない日が来ませんように。秘密の中に秘めたまま、静かに終わりを迎えられますように。
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