殯(もがり)の夜

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「本当に魔物なんているのかしら……」 「昔の人は、理屈で説明できないことを神様や精霊や悪霊のせいにしたのよね?」  雅が流れに頭を出した石に飛び乗り、手を水に浸すとすくって飲んだ。 「みやびは、電波が届かないから、ここの人たちを非文明人と決めつけているわね」  月子と咲耶も石に飛び移った。 「だってぇ、石上さんの話では、この村の人たちは人類を冥界のモンスターから守るヒーローのようだけど、そんなことあるかなぁ?」  雅が言うのはもっともだと咲耶も思った。自室の天井に現れる妖しいものがいるのは間違いないけれど、それは人に危害を加えない虫のようなものだと思うし、艶邪虜と教えられたものと接触した記憶もない。 「サクは戦ったのでしょ? どうなの?」  月子に問われ、自分はわからないと応じた。 「そうなんだ……」  彼女は水をすくって飲むと、美味しいと声にした。 「もしかしたら、河童がいるわよ」  3人は靴を脱ぎ、手に持って浅瀬を歩いた。子供たちが遊んでいるのとは、反対の川上に向かって……。どれほど歩いても川もそれを取り巻く緑の風景も変わることがなかった。水の中を泳ぐのは河童ではなく魚で、大きなトンボが3人の目の前をかすめていった。稀に、木々の向こうに住宅が見え、流れの強そうな深みに円筒状の水車が沈んでいて、そこから黒いケーブルが村に向かって伸びていた。 「ここは自然と人工物の比率が、都会と逆ね」  咲耶が感じたことを月子が言った。
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