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とある教師の死
山上咲耶が灯りを消してベッドに入ると、天井の隅にクリクリとした黒い瞳が現れ、カーテンの隙間から射す月明かりを鈍く反射した。それは横になったばかりの咲耶との距離を測るようにパチパチと瞬きすると、ゆっくりと彼女の真上に移動した。
見られている……、咲耶は感じていた。怖くはない。2年ほど前、中学3年生の夏休みを迎える直前から感覚が鋭敏になり、自分の動向を追う眼や耳が室内にあることに気づいた。夜中に目覚めて、それを見たことも何度かある。今も眼を開けたら、目玉や耳を見ることができるだろう。わかっていたがそうはしなかった。視線が合ったら、お互い気まずくなる。
その家は、13年ほど前に父親の比呂彦が中古で購入したものだった。生活雑貨の輸入事業で成功した彼が、不動産事業も手掛け始めたときに格安で手に入れたのだ。高級住宅街にあるその屋敷は、300坪ほどの敷地に50坪ほどの木造住宅と車が3台入る屋根つきの車庫があって、庭には立派な黒松や楓、桜、黒竹、紅梅のある日本庭園があり、大きな池には錦鯉が泳いでいた。幼いころ、咲耶は池で金魚や鯉を釣って遊んだ。美しい草花もあって興味を引いたが、毒草があるのでそれには触れるなと両親から注意されていた。
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