Ⅲ 隻眼の従者

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暗い、ふかい、夢の底にいたわたしを引きよせる、頭のひんやりとした冷たさ。 ぼんやりと、それが誰かの手だとわかって、そして、わたしの夢はパチンと弾けた。 まぶたの向こうは明るくて、夢のなかの寒さはどこにもない。 ぬくぬく、ふわふわとした何かのなかで、体もまぶたも、心地よく重い。 それでも、閉じていた目をゆっくりあけてみれば、 そこは、あたたかな光でいっぱいの場所だった。 やわらかなクリーム色の壁。 籠の中よりずっと広くて高い天井に、吹きこむ風にゆれる、白いカーテン。 見たこともない、おうちのある場所とは全然違う、すごくきれいで、明るい場所。 起きたばっかりで、まだ少し、頭がぼんやりするけど。 知らない場所、とわかって、ピシリと体に電気みたいな衝撃がはしった。 トクトク、トクトク、胸の中でなにかが暴れて、体の上にかけられているふわふわをぎゅっとにぎりしめる。 「………ああ。目が覚めましたか」 ──カチカチに体を固まらせていると、すこし離れた場所から、誰かの声がした。
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