Ⅲ 隻眼の従者

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知らない場所に、誰かの声。再びの衝撃。 体の下にある翼がびく、びく、と怖がるように震えて、その度に骨がきしむような痛みがはしる。 「っ……、ぁ」 近づく足音が、こわくて。 夢のなかのあの暗闇が頭のなかに残っているようで、こわくて、こわくて、思わずギュウッと目をつぶった時。 そっと、体の上のふわふわ越しに、誰かが触れてくるのがわかった。 「──…大丈夫。痛いことも嫌なことも、何もしませんよ」 はっ、ひゅ、と。不器用な呼吸をして、体をカチカチにしている私を落ち着かせるように。 ポン、ポン。私のお胸のあたりを、小さな子にするように、一定のリズムで触れられる。 昔見た、別の籠の中にいた親子が、自分の子供を寝かしつけるときの手と同じ。 「…そう、急がないで息を吐いて、……うん、偉いな」 直接触れられるよりずっと遠いその手は、どこかおだやかでやさしい声は、知らない人、けれど、固まった体からゆっくりと力をうばっていく。 いつのまにか、息も苦しくなくなっていて、わたしは少しふらふらする頭を動かして、声の方を見た。 ──まず見えたのは、わたしの知っている人たちとは少しちがう、浅黒い肌。 黒い髪は少しはねていて、少し隠れている目は、くらやみを照らす蝋燭のあかりのように、でも、それよりしずかで、お月さまのようなきれいな色をしている。 だけど。ほんとうなら2つあるはずのきれいな目は、片方が黒い布で隠されいて、見ることができない。 わたしたちの世話をしていた人たちより若くて、それでも、子供じゃない。 それになんだか、いままで見てきた人とはなにかが違う、……ふしぎなひと。 と。
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