Ⅲ 隻眼の従者

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「………っ、ふ」 あんまりにもわたしがみていたから、怒らせてしまったのか。 ちいさく目の前の男の人の肩がゆれて、かすかに息吐くような声が、きこえた。 「っ」 そして、お月さまのような明るい目に、まっすぐに射抜かれる。 ……おこられる。 ぶきみな双翼が、バケモノが、人間さまをみるなと。 きっと、そう怒鳴られて、殴られてしまう。 勝手に背中がふるえて、頭の中をぐるぐる、怖い考えがまわる。 すこしでも殴られる場所を減らしたくて、またいつもみたいに体を小さくしようと、したけど。 殴られるより、怒鳴られるよりはやく。 怖い声とはほど遠い、おだやかな声が、わたしの耳に届いた。 「ひとまず、落ち着いたようでよかった。……ほら。痛いことも、怖いことも。何もないでしょう」 その、声が。あんまりにもやさしくて、わたしは少しの間、混乱してしまう。 こわくて、おそろしくて、目の前の人が誰なのか、なんでここにいるのか、なにもわからなくて。 でも、頭と体をしばりつける恐怖を、警戒する心をなだめるように。 男の人の声はやさしくて、手をあげる様子はもちろん、怒るそぶりもなく。 むしろ、わたしの様子を予想していたように落ち着いていて、ゆっくりと言葉を続けていく。
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