Ⅰ 鳥籠の世界

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また伸ばされた男の人の手に、髪の毛をつかまれた。 そのままむりやりに引っ張られて、ぷつぷつ、音がするのがとても遠いことのように思える。 籠の向こうにいる気配たちが、こわがっている。 だから、なんとなくわかった。 処分、って、何をされるのかわからないけど。 たぶんわたしは、もうこのおうちに戻ってくることはないんだなって。 籠のそとの床は、さっきまで寝ていた床よりずっと冷たくて。 引きずられているから、腕やうまく動かない足が、ざりざりと擦り切れていくのがわかる。 しんじゃうのかな。 でも、もう。とってもつかれちゃったから。 もしこのまま、もう目が覚めなくても。 そのほうが、いたくなくていいかもしれない。 そう、考えて。 髪を掴まれて痛いからか、じわりと目の前が歪みはじめて、涙が落ちないよう、そっとまぶたを閉じた。 その、直後。 「──上の指示も無しに、随分勝手に動いているな」 「あぁ? ……って、!?」 「なッ、貴方は…ナイトレイド家のシアン様…!? なぜ貴方様がこのようなところに!、」 「黙れ」 「その異端児は俺が持っていく。ここの責任者のアレスターとは話がついている、異論は認めない。  それから──単純な(めい)もこなせない者は要らない。処分は免れないと思え」 「「───!?」」 「わかったら、その薄汚い手を、今すぐ離せ」 まぶたを閉じて、ぜんふぜんぶ、見ないフリして。 深い深い、くらやみに落ちていく、朧な意識の中。 そんな、誰かの声が聞こえた、…気がした……。
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