13人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
また伸ばされた男の人の手に、髪の毛をつかまれた。
そのままむりやりに引っ張られて、ぷつぷつ、音がするのがとても遠いことのように思える。
籠の向こうにいる気配たちが、こわがっている。
だから、なんとなくわかった。
処分、って、何をされるのかわからないけど。
たぶんわたしは、もうこのおうちに戻ってくることはないんだなって。
籠のそとの床は、さっきまで寝ていた床よりずっと冷たくて。
引きずられているから、腕やうまく動かない足が、ざりざりと擦り切れていくのがわかる。
しんじゃうのかな。
でも、もう。とってもつかれちゃったから。
もしこのまま、もう目が覚めなくても。
そのほうが、いたくなくていいかもしれない。
そう、考えて。
髪を掴まれて痛いからか、じわりと目の前が歪みはじめて、涙が落ちないよう、そっとまぶたを閉じた。
その、直後。
「──上の指示も無しに、随分勝手に動いているな」
「あぁ? ……って、!?」
「なッ、貴方は…ナイトレイド家のシアン様…!? なぜ貴方様がこのようなところに!、」
「黙れ」
「その異端児は俺が持っていく。ここの責任者のアレスターとは話がついている、異論は認めない。
それから──単純な命もこなせない者は要らない。処分は免れないと思え」
「「───!?」」
「わかったら、その薄汚い手を、今すぐ離せ」
まぶたを閉じて、ぜんふぜんぶ、見ないフリして。
深い深い、くらやみに落ちていく、朧な意識の中。
そんな、誰かの声が聞こえた、…気がした……。
最初のコメントを投稿しよう!