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Ⅲ 隻眼の従者
しずかな暗闇のなか。
たったひとり、うずくまって、あの籠の中で息をひそめるように生きていた。
たまに聞こえる、誰かの泣くこえ。
石の地面を引っ掻きつづける誰かの、鉄のにおい。
いきたくない。しにたくない。
おうちにかえして。かぞくをかえして。
冷たい空気のなか、とおく聞こえる声にこたえる人なんて、だれもいない。
応えたら、きっと──
……ううん、そんなことしなくても、きっと。
『っ、いやあああぁああああ!! だれかっ、助けて!! いきたくないよおお!!!』
あの暗い道の向こうから、こわい人たちが、やってくるから。
カツン、カツン。
冷えきった石の床を、今日も靴の音が響いてくる。
かえりたいと泣く、誰かをむかえに。
生きる価値がないって、嗤われる、ふきつなわたしをむかえに。
───暗い、くらい、籠の向こうの側に、蝋燭のあかりが見えてきた。
だれかがわたしを覗きこむ。
それを、お胸にぽっかり穴が空いているようなきもちで、ぼんやり、見あげた───……
…………。
ひんやりとしたなにかが、わたしの頭にふれた、気がした。
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