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「どうして婚約中って分かったの?」
「その左手の指輪でございます。結婚指輪にしては華やかな装飾に大粒の宝石。それにまだ真新しくてピカピカですね」
「そうなの。これは婚約指輪で、結婚指輪は彼が自分の祖国でオーダーしてくれるそうよ。ちょうど今、向こうに帰っているから準備しておくって…」
そう言って何故か口角を下げた美貴は潮夏を撫でていた手を止めた。
「お相手様は日本の方ではないのですね」
「イタリアの人よ。実家は自然がいっぱいでいいところみたい。私も前に向こうで働いていたことがあって、それで知り合った人でね。でも私は市街地エリアから出たことがなくて…」
「失礼ながら、先ほどからあまり嬉しそうではない感じが...いたしますが」
潮夏がためらいがちに言うと、美貴は悲しそうにうなだれる。
「知らない場所で...あの人以外の知らない人達と一緒に生きていけるか不安で…」
「お相手様にはそのお気持ち、話されましたか?」
「ええ。優しい人だから私を心配してくれて。だったら結婚を延期してもいいし、日本で暮らしてもいいって。でも...家族想いなあの人は、本当は自分の故郷でみんなで楽しく暮らしたいんだと思う…」
幸せの象徴であろう婚約指輪を、美貴は辛そうに見つめた。
「お客様」
自分の真横にいるハズの潮夏の声が、上から響く。
美貴が見上げてみると、そこには長身の美女が起立していた。
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