千夏

4/7
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
列車内の窓は全部少しだけ開けられており、そこからの風を感じられて眺めもいい運転席の横は特等席だ。 「向かって右側は穏やかな大海。そして左側は…本日は一面のひまわり畑をお楽しみください」 海を眺めていた千夏(ちなつ)が、チラリと車掌のいる方へ目をやる。 その瞬間に息をのんだ。 「おお、豪快なひまわりじゃな!なあお客さん。…お客さん?」 千夏(ちなつ)はトラ猫に話しけられてもしばらく無反応だった。 「夢でも…嬉しい」 「ん?」 「この景色…私の地元の風景そのものよ。娘を産んでから1回も帰ってない実家…ひまわり畑…」 「夢じゃないぞ?なあ潮夏(しおか)?」 潮夏(しおか)と呼ばれた女性車掌が一瞬だけこちらを見て笑顔で頷く。 その表情をよく見てみると、まだかなり若そうだ。 長身で色白で、制服を格好よく着こなしている。 首の赤いチョーカーは可愛いアクセントだ。 「車掌さん、可愛い名前ね」 「ありがとうございます。お客様のお名前もお伺いしてよろしいですか?」 「千夏(ちなつ)よ。数の千に季節の夏なんて...。平凡でしょ?」 「素敵なお名前です。同じ「夏」の字が付いていらっしゃって、親近感が湧きました」 「私、夏生まれだから」 2人は目が合うと、親しい友人同士のように笑いあった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!