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列車内の窓は全部少しだけ開けられており、そこからの風を感じられて眺めもいい運転席の横は特等席だ。
「向かって右側は穏やかな大海。そして左側は…本日は一面のひまわり畑をお楽しみください」
海を眺めていた千夏が、チラリと車掌のいる方へ目をやる。
その瞬間に息をのんだ。
「おお、豪快なひまわりじゃな!なあお客さん。…お客さん?」
千夏はトラ猫に話しけられてもしばらく無反応だった。
「夢でも…嬉しい」
「ん?」
「この景色…私の地元の風景そのものよ。娘を産んでから1回も帰ってない実家…ひまわり畑…」
「夢じゃないぞ?なあ潮夏?」
潮夏と呼ばれた女性車掌が一瞬だけこちらを見て笑顔で頷く。
その表情をよく見てみると、まだかなり若そうだ。
長身で色白で、制服を格好よく着こなしている。
首の赤いチョーカーは可愛いアクセントだ。
「車掌さん、可愛い名前ね」
「ありがとうございます。お客様のお名前もお伺いしてよろしいですか?」
「千夏よ。数の千に季節の夏なんて...。平凡でしょ?」
「素敵なお名前です。同じ「夏」の字が付いていらっしゃって、親近感が湧きました」
「私、夏生まれだから」
2人は目が合うと、親しい友人同士のように笑いあった。
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