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「千夏様はいつもあのホームに座っていらっしゃいましたね」
「え!?...もしかして、いつもの定期列車も潮夏さんが運転してるの?」
「私はこの列車専属でございます。でもいつもあの辺りを通りますので」
「へえ?」
「その大きなトートバック、いつも大事そうに抱えておいでですね」
「通勤バックだからね…」
「どこかに行く予定でしたか?だいぶ重そうなので、着替えや洗面道具が入っているのではと」
「え!?」
驚いた千夏だが、やがて両手の力を緩めるとバックの口を開けて潮夏へ向けてくる。
「うん…そうよ」
そこには潮夏が指摘した通りの荷物がギュウギュウに詰め込まれていた。
「実はね、今日こそは…今日こそはもう逃げようって。毎日仕事の終わりにあの定期列車に乗り込みたくてあそこにいたの。でも結局無理。列車には乗れない。小さい子どもを迎えに行って、家事も育児もやらなくちゃ…全部やらなきゃいけない…。夫は何もしないからね。娘もまだまだ手がかかるから少しも気を…抜けなくて…」
語尾が消え入りそうなると当時に声が震え、自然と涙が流れてきた。
それを見せまいと素早く真下を向いて、トートバックのボタンを静かに閉じる。
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