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「やっぱり父さんの言う通りかな…」 海辺の小さな駅で帰りの電車を待つ(たける)は、担任から受けとった有名私立高校の合格通知書を眺めている。 1か月後には県立高校の試験が控えてはいるものの、教育熱心な父親は進学率が高く設備の整ったこの私立高校を前々から強く推していた。 父親は多少厳しいが威厳があり、尊敬できる人間だ。 全て父に従えば、この先自分の進む道に間違いはないだろう。 一方の母親はのんびりとしていて優しい。 小学生から続けているサッカーは父が反対しても今までやらせてくれたし、試験勉強中は毎日夜食やコーヒーを用意してくれた。 やけに美味しいコーヒーだと思っていたら、インスタントからハンドドリップに変えたらしい。 息子と共に何かを勉強しようと思い立った母は、専門店に通って豆の産地や焙煎の具合等を研究していたそうだ。 それにしても...。 進路の事で、(たける)の頭の中は最近ずっとグルグルしている。 すぐにでも手元の通知書を送ってきた高校に進学を決めてしまえば楽だろう。 県立受験組の同級生を横目に、しばらく呑気に遊んでいられるだろう。 でも...。 「はぁ…」 ピンポーン ピンポーン 缶ジュースでも買うかとベンチから腰を上げた時、聞き慣れない電子音が聞こえた。 『まもなく1番線に潮時列車(しおどきれっしゃ)がまいります』
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