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「今…」
「喋ったぞい?そこからの景色、爽快じゃろうて」
「う…ん」
爽快さはどこかに吹き飛んだ。
猫が気さくに話しかけてきていることの方が大事件だ。
「なんじゃ、最近の学生は元気がないのう。なあ潮夏?」
「お父さん、お客様は猫が喋って驚いておられるのです」
「あ、そっか。失敬失敬、はははっ」
猫は何がツボに入ったのか、座席をバシバシ叩いて笑っている。
「で、君は転機を迎えとるんじゃな?」
「転機?」
何のことやらと首を傾げる尊だが、隣の学生カバンを見て大げさに手を叩いた。
「あ!進路のことか?」
「既に合格通知が来とるじゃないか。おめでとう」
「なんで知ってるんだ?」
「カバンが開いとる」
「見たのか…。まあ。ありがとう」
トラ猫は歯切れの悪い尊の膝に乗ると、海辺と反対側の車窓を前足で差す。
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