5/7
前へ
/20ページ
次へ
「え?何?重いんだけど」 「失礼じゃぞ。それよりそっちの景色も見てみい」 「そっちは平野側だから特に何も…」 (たける)の感覚では住宅街でも続いているんだろうと思っていたが、渋々窓を見る。 「…え?」 そこには過去の様子が...。 サッカーの試合や、テスト勉強をしている自分が映っていた。 横長の窓がスクリーンのように鮮明に、様々な場面を映し出す。 やがて見覚えのあるマグカップが登場した。 「あれ俺の…いつも母さんがコーヒー淹れてくれるコップ」 母がハンドミルで一心に豆を挽いている。 しばらくして満足のいく挽き具合になったのか真顔で何度も頷き、それから天井を見上げた。 キッチンの真上はちょうど(たける)の部屋だ。 しばらくそうしていた母は、急に優しく微笑んだ。 ...... 「母さん…」 (たける)が呟くと同時にスクリーンの色が薄れ、何の変哲もない雑木林に変わる。 こちらが本来の景色なのだろう。 「お母さんも合格を喜んでるのかの?」 「いや…学校から電話したら喜んではいたけど。でもちょっと間があったな」 母は、一人息子がサッカーに夢中なことをよく知っていた。 だから自宅から近くてサッカーの強豪でもある県立高校にしたらどうかと、いつもそれとなく(たける)と父に話していた。 学費が安いのもあると言っていたが、『金は気にするな』と父は聞く耳を持たなかった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加