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「え?何?重いんだけど」
「失礼じゃぞ。それよりそっちの景色も見てみい」
「そっちは平野側だから特に何も…」
尊の感覚では住宅街でも続いているんだろうと思っていたが、渋々窓を見る。
「…え?」
そこには過去の様子が...。
サッカーの試合や、テスト勉強をしている自分が映っていた。
横長の窓がスクリーンのように鮮明に、様々な場面を映し出す。
やがて見覚えのあるマグカップが登場した。
「あれ俺の…いつも母さんがコーヒー淹れてくれるコップ」
母がハンドミルで一心に豆を挽いている。
しばらくして満足のいく挽き具合になったのか真顔で何度も頷き、それから天井を見上げた。
キッチンの真上はちょうど尊の部屋だ。
しばらくそうしていた母は、急に優しく微笑んだ。
......
「母さん…」
尊が呟くと同時にスクリーンの色が薄れ、何の変哲もない雑木林に変わる。
こちらが本来の景色なのだろう。
「お母さんも合格を喜んでるのかの?」
「いや…学校から電話したら喜んではいたけど。でもちょっと間があったな」
母は、一人息子がサッカーに夢中なことをよく知っていた。
だから自宅から近くてサッカーの強豪でもある県立高校にしたらどうかと、いつもそれとなく尊と父に話していた。
学費が安いのもあると言っていたが、『金は気にするな』と父は聞く耳を持たなかった。
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