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「君自身が行きたい学校に行ったらどうじゃ?」
「でも私立校も快適そうだし、それにスポーツよりももっとちゃんと勉強しないと…」
やはり歯切れの悪い尊はそこで考え込むように俯く。
が、気配に気づきすぐに顔を上げると、そこには潮夏が立ってこちらを見つめていた。
「車掌さん!?運転は…」
運転席には、いつの間にか初老の男性運転士が座っている。
「いつの間に…誰?」
言いながらも膝上のトラ猫がいないことに気づく。
「さっきの猫...?」
「父は運転士の大ベテランなのでご安心ください。私も運転は出来ますが、まだ経験が多くありません。それに車掌業務の方が性に合っております」
「はぁ...」
「それよりもお客様」
「は、はい!?」
潮夏の大きな声に反射的に立ち上がった尊は彼女と対面する。
自分よりかなり長身でスラッとした彼女はプロのモデルのようだ。
「お客様の現在の状況、葛藤、お悩み。すべて潮時でございます」
潮夏が深く一礼する。
「え?」
「潮引いて潮時。さあ、そろそろご卒業くださいませ」
「…?まあ、確かに3月には中学卒業ですけど」
「学校とはまた別でございます。貴方様の大切な方は、貴方様の幸せをお望みです」
そう言って潮夏が尊の横に並ぶと、再び対面の車窓に母が映った。
どうやら先ほどの続きのようだ。
少し見ていると、母の口が動いた。
「尊、楽しむことは子どもの義務よ。サッカー、続けたら?」
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