輝きは赤で濁っていた

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「なあ、今どこにいんの?」  森の湿った土を踏みしめながら、どこかから聞こえてくる弟の声にそう問いかけた。 ────── ───  人類が滅亡寸前の地球で俺は一人の兄弟と、とある島にある森の中で暮らしていた。  文明の利器なんてものは無い。すべて自給自足の生活で度々森や海に資材を調達しなければならないのだ。  常に危険がつきまとう環境で生き延びなければならない時代の中、俺は新たな危機に直面していた。  世界でたった一人の弟が、森で迷子になってしまったのだ。  森の中は危険しかない。熊や猪に襲われたら、貧弱な弟は為すすべなく死んでしまうだろう。  一刻も早く助け出さなければならない。  そんな焦燥感から投げかけた言葉に対し、弟はのんびりとした声色でこう答えた。 「さぁね、わかんないや」  あはは、と軽い調子で笑う我が弟の緊張感のなさに、若干苛立つ。  こいつはいつもこんな調子だ。俺より運動神経も頭の良さも判断力も劣っているくせに、危機が迫った状態の時はいつも"なんとかなるよ"と笑う。  結局なんとかならなくて、俺が助けに入るのがオチである。 そして今回もそうだ。  この頃雨続きでなかなか食べ物を集められていなかったため俺が外に食料を調達しに行っていたのだが、その隙に勝手にこいつは外に出かけていたのだ。  家に帰って、誰もいない部屋を見たときの俺の気持ちも考えて欲しいものだ。  しかも、弟は方向音痴の上に森を歩きなれていない。案の定、自分がどこから来たかわからなくなったらしい。  方位磁石も持ちだし忘れていたらしく、あいつ自身も自分がどこにいるのかわかっていない。  そのせいで俺はそこら中を探す必要があった。 「そっから見えるもの、教えろ」 「んー……まあ、キミが今いるところとおんなじような物が見えてるんじゃないかな。木がいっぱい生えてる」 「なんだそれ!答えになってねえじゃん」  森の中は確かにどこにいても木しか見えないかもしれないが、それでも何か特徴的なものを言ってくれよ。  やはりこいつは、俺よりも頭が悪いんだ。早く側に行って守ってやらないと、こんなやつはすぐに野垂れ死んでしまう。 「だいぶ時間がたったはずだが、怪我はしてないのか」 「いやあ、実はさっきクマに襲われちゃってね。結構痛かったかも」 「おまっ、大丈夫なんだろうな、逃げ切れたのか!?」  いきなりとんでもない事を言う弟に対し、今すぐ彼の肩に掴みかかりたい気持ちになった。  慌てる俺を落ち着かせるような穏やかな声で弟は、"まあ、もう近くにはいなさそうかな〜"と返事を返してきた。 「ならいーけどよ。さっさと手当して血の匂いを消しとけよ。お前貧弱だから、すぐに獣に食い殺されるぞ」  野犬に嗅ぎ付かれたら厄介だからな、と注意すると、あいつは口を噤んだ。  少しきつい言い方だったかもしれないな。俺は軽く注意をしたつもりだったのだが、どうやら弟はへこんでしまったらしい。  まあ、こいつの自業自得であるため特に慰めの言葉はかけなかった。  というよりも、どうかこれを教訓に今後の行動を改めてくれとも思っていた。
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