輝きは赤で濁っていた

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 カアカアという鳥の声に、ふと空を見上げた。いつの間にか空は少し赤に色づいていて、夕暮れを知らせている。  弟と話している間に、随分時間が経っていたらしい。 「そろそろねぐらに戻らねえと、日が暮れてきたぞ。遊んでないで早く帰ってこい」 「キミこそ早く帰ったほうがいいんじゃないの……僕は別に、自力で帰れるし。なんとかなるよ」 「ばぁーか、二人で一緒に帰るんだよ!」  困ったような笑い声が聞こえた。 そののらりくらりとした態度に対して、思わず苛立つ。 「忘れたのか?約束」 「……忘れてないけど、さ」  あいつの珍しい冷静な声の返事によって、自分が鋭い口調で問いかけていることに気づく。  焦った時に苛立ちを誰かにぶつけてしまうのは俺の悪い癖だった。  弟は俺の悪癖に慣れていたはずだったのだが、やはりこいつも、俺の態度に動揺してしまうくらいには普段と違う環境に不安感を抱いているのだろう。  けれど、問い詰めるような言葉を掛けてしまったのは俺の方だ。俺が素直に小さく謝ると、なんとも言えない気まずい空気が漂う。  俺が何も言わずに黙々と森の中を歩き回っていると、その空気を払うような明るい声で弟が話しかけてきた。 「し、仕方ないな、答えを教えてやろう!実は今、僕達のねぐらにもう戻ったんだ。だからキミも早くここに戻っておいでよ」 「はは、嘘だな!俺に嘘をつけると思うなよ!お前が今、森で迷子になってることなんてバレバレだぜ」 「うぐ……」  こいつは嘘がわかりやすいため、今まで俺は弟の嘘を見破れなかったことはなかった。  あいつが嘘を言うときは、声色がいつもと明らかに違って聞こえるのだ。あいつが嘘が下手で、本当に助かっている。  しかし、我が弟は自分の心配もせずに俺の身の危険を気にかけているらしい。  俺よりも能力が無いくせに人のことを気にかけてしまうのは、お人好しなあいつらしい言動である。 「なあ、そもそもさぁ、どうして外に出たんだ?家に居れと言っただろ」 「いやぁ……ね、お腹が空いちゃってねぇ。近くに生えていたあの木の実と果物でも調達しようかと思って……ね」  しどろもどろに説明する弟に対し、思わず悪態をつく。  確かに、最近は天候の悪い日が続いたため食料調達に出かけることができず、家に貯蓄していた食べ物はほとんど残っていなかった。  とはいえ、俺との約束を破って外に出ることは辞めてほしかったのだ。  しかし、きのみが採れる場所は家からとても近かったはずなのだが……どうして迷うほど森深くまで行ってしまったのだろうか。  そこまで考えたところで、ぴんと閃きのような感覚が脳に走った。弟が異常な綺麗好きであることを思い出したのである。 「わかった、お前、木のみを洗いに湖に行こうとしたんだろう?あそこってベリーも採れたはずだから、潔癖なお前は水で洗おうとしたんだろう。ねぐらから湖まで結構距離があるからな、どうせその道中で迷ってしまったってところか?」 「ううう、面目ない……」  どうやら図星だったらしい。ごめんなさいと呻くような謝る声が聞こえた。 「わかった、これ以上闇雲に歩き回っても埒が明かないからな。とりあえず湖まで行くことにする。わかったな」 「……、うん」  地面に落ちた木の枝を踏んで方位磁石を見ながら、湖の方に早足で向かう。  その道中、あれだけお喋りだった弟が黙り込んでいた事は気にかかったが、とにかく今はあいつの救出が先決だ。  俺は急いで、手に持っていた方位磁石の針の先を見つめた。
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