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あの子が好んで着ている服に身を包んで、待ち合わせの場所へ向かう。
もうすぐ彼に会えるからだろうか。足取りが軽くて、羽が生えているかの様だった。今なら空だって飛べる気がする。
かつん。ふわり。こつん。ひらり。
三センチの低めのヒールが歩く度に音を立て。ふわふわとしたフレアスカートが揺れる。
一人、また一人と集まる視線。
真夏の太陽みたいな熱い視線の数々に、ちゃんとあの子みたいに成れているのだと安堵した。
微かに上がった口角に、視線の温度がまた上がるのを肌で感じて。歩く速度を少し早めた。
仲良さげに歩くカップルの横をすり抜け、楽し気に笑い合う女子高生グループを追い抜いて。休日の浮ついた空気の中を突っ切る。
あぁ、早く会いたい。
浮かんでくるのは好きで好きで仕方がない彼の顔。
歩くスピードを更に速めて、腕時計をチェックする。待ち合わせまであと十分。きっちりしている彼なら、きっとこの時間には来ているだろう。
お守り代わりのスマホのホーム画面。それを数秒眺めてから、彼がいるであろう場所へ駆ける。
「孝之君!」
待ち合わせに使われる事が多いだけあって、人で溢れかえっている場所。そんな中でも彼をすぐに見つけてしまえる自分に、誇らしさすら感じた。
「ごめん、待たせた?」
「俺も今来た所だよ」
眦を下げて柔らかく笑う顔も。私に気を遣わせない様にしてくれる所も。
「今日いつもと髪型違うんだね。凄く似合ってるよ」
こうやって少しの変化にもすぐに気付いて褒めてくれる所も。
「嬉しい!孝之君もすっごくかっこいいね!」
それこそあの子に成るために自分を捨ててしまえるくらいには。他人からしたらバカみたいな事をしてしまうくらいには。彼の事が好きなのだ。
どうしようもなく惹かれてしまったのだ。
ふと、友人達の複雑そうな顔が過ぎって、慌てて笑みを作り直す。
「ね、今日は何処に行くの?」
孝之君の手を握って、顔を覗き込む。彼の瞳に映る自分は、ちゃんとあの子みたいに笑えていて、その事にまた安堵した。
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