私は成るの

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大人気の少女漫画が原作の映画を観て。 テレビで取り上げられて流行っているカフェの一番人気のパンケーキを食べて。 カフェ近くの大型ショッピングモールでウィンドウショッピングをして。 広いフードコートで有名チェーン店のアイスを食べる。 一口交換して、美味しいねって笑い合って。 大好きな人との初デート。これ以上ないくらい幸せなはずだった。それなのに、胸にぽっかりと穴があく。どんどん深く、広くなっていく穴に、私は為す術もなかった。 このデートが決まってから、今日をずっと楽しみにしていたのに。 この日のために悩みに悩んで服を買って。その服に合う様に、化粧も雑誌を買い漁って勉強して、何通りも試して。ヘアケアだって頑張ったし、スキンケアだっていつもより念入りにした。 今日ほど幸せな日は無いはずだった。 彼の為に、自分の意志で。それまでの、十九年で形成された自分を捨てた。 あの子に成る為に必死にやって、彼にアピールして。勇気を出して告白して。付き合えた時は天にも昇る様な気持だった。私は世界で一番の幸せ者だと本気で思った。 デートに誘われた時は、こんなに幸せで良いのかと逆に不安になったくらいで。 ──それくらい、楽しみにしていたのに。 ずっと、あの子の影が見え隠れしている。 あの子が好きな映画。あの子の好きな食べ物。あの子の好きなもので溢れているデートだった。 最初はそれでも楽しいと思えていたのに。時間が経つにつれて、どんどん気持ちが萎んで、虚しさが募って。 意識しなくても出来るようになっていた、あの子みたいな微笑みが。少しずつ引きつって、維持できなくなってきた。 彼の顔を見るのもしんどくなって、でも逸らす事も出来やしない。だってあの子は、ちゃんと人の顔を見て話すから。顔を逸らしたりなんか、絶対にしない子だから。だから私も、彼と視線を合わせて笑う。 ゆっくり歩幅を合わせて歩いてくれる孝之君の隣で、楽しそうに。幸せそうに必死に笑みを作る。 彼の瞳に映る自分を確認する勇気は、もうなかった。
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