1人が本棚に入れています
本棚に追加
大人気の少女漫画が原作の映画を観て。
テレビで取り上げられて流行っているカフェの一番人気のパンケーキを食べて。
カフェ近くの大型ショッピングモールでウィンドウショッピングをして。
広いフードコートで有名チェーン店のアイスを食べる。
一口交換して、美味しいねって笑い合って。
大好きな人との初デート。これ以上ないくらい幸せなはずだった。それなのに、胸にぽっかりと穴があく。どんどん深く、広くなっていく穴に、私は為す術もなかった。
このデートが決まってから、今日をずっと楽しみにしていたのに。
この日のために悩みに悩んで服を買って。その服に合う様に、化粧も雑誌を買い漁って勉強して、何通りも試して。ヘアケアだって頑張ったし、スキンケアだっていつもより念入りにした。
今日ほど幸せな日は無いはずだった。
彼の為に、自分の意志で。それまでの、十九年で形成された自分を捨てた。
あの子に成る為に必死にやって、彼にアピールして。勇気を出して告白して。付き合えた時は天にも昇る様な気持だった。私は世界で一番の幸せ者だと本気で思った。
デートに誘われた時は、こんなに幸せで良いのかと逆に不安になったくらいで。
──それくらい、楽しみにしていたのに。
ずっと、あの子の影が見え隠れしている。
あの子が好きな映画。あの子の好きな食べ物。あの子の好きなもので溢れているデートだった。
最初はそれでも楽しいと思えていたのに。時間が経つにつれて、どんどん気持ちが萎んで、虚しさが募って。
意識しなくても出来るようになっていた、あの子みたいな微笑みが。少しずつ引きつって、維持できなくなってきた。
彼の顔を見るのもしんどくなって、でも逸らす事も出来やしない。だってあの子は、ちゃんと人の顔を見て話すから。顔を逸らしたりなんか、絶対にしない子だから。だから私も、彼と視線を合わせて笑う。
ゆっくり歩幅を合わせて歩いてくれる孝之君の隣で、楽しそうに。幸せそうに必死に笑みを作る。
彼の瞳に映る自分を確認する勇気は、もうなかった。
最初のコメントを投稿しよう!