私は成るの

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「最後に寄りたいお店があるんだけどいい?」 今にも剝がれ落ちてしまいそうな、あの子の仮面を取り繕い続ける私に気付く事無く。彼は楽しそうにお店を見て回っていた。 気付かれない事を望んでいるのに。気付いて欲しいとも思っている。ままならないこの感情の、一体どちらが私の本音なのだろう。 彼の後ろを付いてアクセサリーショップに入る直前。今日だけで何度も見たホーム画面(お守り)をもう一度目に焼付ける。それでも穴は更に大きくなって、痛みを訴えてくるのだからどうしようもなかった。 耐え難い痛みから気を紛らわせる為に、ショーケースを覗く。そこには私の化粧品みたいに輝くアクセサリーが並んでいた。学生には少し高いものだけれど、今はどうしてか安っぽく映ってしまう。 楽しそうに店内を見て回る彼とは反対に、のろのろと重い足を引きずる様に歩いて。一つのアクセサリーの前で足が止まった。 繊細な装飾がされている他のアクセサリーと違って、シンプルで少しごつめのシルバーリング。女の子ウケする華奢なデザインが多いこの店の中では、場違いとまでは言わないけれど。浮いているのは間違いなかった。 それでもこの店の中で一等良い物に見えて、視線が外せなくなる。 「……それ、気になるの?」 意外だと思われているのが声音からありありと伝わってきて、お腹の底が冷える。 「……あ、えっと。他のアクセサリーとは違うなって、思って」 たどたどしく吐いた言い訳に、孝之君は納得したように頷いた。 「そういうのが好きなのかと思ってびっくりしたよ」 「……かっこいい、とは思う、よ?」 「そう?僕はあんまり好きじゃないなぁ」 「…………そ、うなんだ」 深い深い穴が、泣き叫ぶ。 もう嫌だと、消えてしまいたいと絶叫する。 好み何て人それぞれで、その人の自由で。だから、彼の好みではなかったと。ただそれだけの事だ。 ぎちぎちと引きちぎれそうな穴に、そう言い聞かせても。胸の穴が、捨てたはずの自分が痛みを訴えてきて。ただでさえ剥がれそうな仮面を壊してしまいそうになる。 「それにこれ、似合わないと思うよ。かなちゃんは、こっちの方が似合うと思う」 そう言って彼が指さしたのは、ピンクゴールドでハート型の石が付いた女の子らしいピンキーリング。 穴の底で、何かが壊れる音がした。 あぁ、そうだね。想像するまでもなく、その可愛らしいピンキーリングは、あの子(かなちゃん)にとても似合う。
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