1人が本棚に入れています
本棚に追加
「最後に寄りたいお店があるんだけどいい?」
今にも剝がれ落ちてしまいそうな、あの子の仮面を取り繕い続ける私に気付く事無く。彼は楽しそうにお店を見て回っていた。
気付かれない事を望んでいるのに。気付いて欲しいとも思っている。ままならないこの感情の、一体どちらが私の本音なのだろう。
彼の後ろを付いてアクセサリーショップに入る直前。今日だけで何度も見たホーム画面をもう一度目に焼付ける。それでも穴は更に大きくなって、痛みを訴えてくるのだからどうしようもなかった。
耐え難い痛みから気を紛らわせる為に、ショーケースを覗く。そこには私の化粧品みたいに輝くアクセサリーが並んでいた。学生には少し高いものだけれど、今はどうしてか安っぽく映ってしまう。
楽しそうに店内を見て回る彼とは反対に、のろのろと重い足を引きずる様に歩いて。一つのアクセサリーの前で足が止まった。
繊細な装飾がされている他のアクセサリーと違って、シンプルで少しごつめのシルバーリング。女の子ウケする華奢なデザインが多いこの店の中では、場違いとまでは言わないけれど。浮いているのは間違いなかった。
それでもこの店の中で一等良い物に見えて、視線が外せなくなる。
「……それ、気になるの?」
意外だと思われているのが声音からありありと伝わってきて、お腹の底が冷える。
「……あ、えっと。他のアクセサリーとは違うなって、思って」
たどたどしく吐いた言い訳に、孝之君は納得したように頷いた。
「そういうのが好きなのかと思ってびっくりしたよ」
「……かっこいい、とは思う、よ?」
「そう?僕はあんまり好きじゃないなぁ」
「…………そ、うなんだ」
深い深い穴が、泣き叫ぶ。
もう嫌だと、消えてしまいたいと絶叫する。
好み何て人それぞれで、その人の自由で。だから、彼の好みではなかったと。ただそれだけの事だ。
ぎちぎちと引きちぎれそうな穴に、そう言い聞かせても。胸の穴が、捨てたはずの自分が痛みを訴えてきて。ただでさえ剥がれそうな仮面を壊してしまいそうになる。
「それにこれ、似合わないと思うよ。かなちゃんは、こっちの方が似合うと思う」
そう言って彼が指さしたのは、ピンクゴールドでハート型の石が付いた女の子らしいピンキーリング。
穴の底で、何かが壊れる音がした。
あぁ、そうだね。想像するまでもなく、その可愛らしいピンキーリングは、あの子にとても似合う。
最初のコメントを投稿しよう!