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『誕生日をお祝いしたいんだけど、空いてる日とかある?』
泣きすぎたせいか、それともお湯を浴びすぎたせいか。だるい頭のまま、床に投げ捨てた鞄の中からスマホを取り出す。
表示されたホーム画面は、あの子と私のツーショット。満面の笑みで写る私達は幸せそうで、それが今は憎らしい。
あの子の顔を見ていたくなくて、ホーム画面を適当な写真に変える。少し息をついてメッセージアプリを開いた。
孝之君からの連絡は、ない。
元々頻繁に連絡をするタイプではない事を知っていても、今はそんな些細な事さえ私の心を抉った。
何も考えたくないと、電源を落とそうとして。一つ、メッセージが届いている事に気付く。
別の大学に入っても、変わらず交流を持っていた友人からのメッセージ。
少し悩んで、『四日なら空いてるよ』と簡素なメッセージを打ち込んで、送る。秒で既読が付いて、『じゃあ四日の十七時からうちでパーティやろ!!』なんてテンションの高い返信がきた。
それだけ楽しみにしてくれているのだと。長い付き合いから察して、がちがちに固まってしまっていた頬が少し緩んだ。
……服は、どうしようか。メイクは。アクセサリーは。
さっきまで止まっていた思考が戻ってくる。
そんなに大きくないクローゼットを開けて、服を漁る。ハンガーにかかっているのは、ふわふわひらひらした可愛らしいものばかり。
これを着て行っても、きっと友人達は何も言わない。ただ少し、寂しそうな顔をするだけ。もう私を捨てたのだし、これでいいだろう。そう思って、薄ピンクのブラウスに手を伸ばし、止める。
それでいいの?
バイトが忙しいと笑って言っていた友人達の顔が過ぎる。
おめでとうと、メッセージだけ送る事も出来たのに。私が彼を好きになってから、少し疎遠になった友人達が、そんな薄情な私の誕生日を祝おうとしてくれている。
クローゼットの奥に隠す様にしまったダンボール。衝動的にそれを引きずり出して、雑にガムテープを剥がしていく。
彼の隣にいる為に捨てた。……それでも僅かに残った、どうしても捨てられなかった以前の私物。
髪型も、メイクも。洋服も。言葉遣いも仕草も好きな物も。全部あの子を真似た。それまでの私をあの子と言う型に無理矢理押し込んだ。潰れて、ぐちゃぐちゃになって。型からはみ出した部分を切り落として。形だけ整えて。
そうやって私はやっと、あの子に成れたと思っていたけれど。
こんな私を抱えたまんまじゃ、あの子に成り損ねるのは、当たり前だ。
それでもあの友人達は、こんな私でも友達だと笑ってくれるのだろう。
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