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「あなたはどこにいますか?」
もう何回も、何十回も、何百回も繰り返した問いかけ。
この問いには何の意味もない。
私は、ここに、いる。
それだけは紛れもない事実だ。
この身体、手足、何よりそれを見下ろす自分。それは確かに今この場に存在する。
胸に手を当てる。
心臓の鼓動が聞こえる。
ほら、私は確かにここにいる。
自分の家族の名前だって覚えている。今まで二十数年余りの人生を想起することだってできる。私は確かにここにいるんだ。
なのに、なぜ、
私の見下ろす身体は、ヒトの形をしていないのだ。
男たちは水槽を見つめる。
「バイタルが乱れている、調整してくれないか」
別の男が答える。
「やっているさ。そもそも全部こちら側で定義している筈だろうに」
水槽の脇に取り付けられた画面が明滅を繰り返し、やがて暗転した。
「また失敗か。仕方ない、身体のところに送り返してくれ」
「分かりましたよ。……とは言っても、もうとっくに灰になっているかもしれませんがね」
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