靴下

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「今どこにいるのかな〜、出ておいで〜♪」 調子外れの鼻歌交じりに、君は無くなった靴下の片割れを探している。 今日は近所に新しくオープンしたカフェに行く予定なのに、これじゃ開店時間に間に合うか怪しくなってきた。僕は時間を気にしながら、彼女の探しものを手伝い始める。 同棲して1年、探しものばかりの君の姿はこの家の日常になってしまった。 僕もその探し物に付き合わされ、必ず僕が見つけ出すまでがお約束。 君は身の回りはガサツなのに、仕事はできるのが不思議で仕方ない。 でも、唯一君が見つけ出してくれたものがあったよね。 「…ねえ、今どこにいるの?私地元帰って来ててさ、明日会おうよ!!」 ブラック企業で疲弊した中、唯一の家族だった母親を病気で亡くして、全部投げ出してしまおうと思っていた日。全てを終わりにしようとした日。 君は唐突に連絡をくれて、ムリヤリ勝手に約束して、僕に明日の理由づけをした。 ほんとは地元になんて帰っていないのに、僕と幼馴染っていう腐れ縁だけで僕を引き止めてくれた。 ただ、あの時君が声をかけてくれたおかげで、今も僕というモノがここに在るんだ。 靴下の片割れは、ベッド脇の深淵に転がっていた。 僕はそれをつまみ上げ、彼女に手渡す。 「ほらあったよ。もう、ベッドの上で洗濯物畳むのやめなよ。」 「うわ、見つけてくれてありがとう!」 彼女は僕の忠告を聞き流し、鼻歌交じりで靴下を履く。 「うん、やっぱり靴下は2つで1つだね♪」 脳天気な彼女に少しうんざりしながらも、その言葉には共感できる。 あの日、君が僕を見つけ出してくれたように、僕で良いのならいくらでも君が無くしたモノを見つけるよ。 ただ、その代わりと言ったら何だけど、僕らも二つで一つって言われるくらい 、ずっと側にいてくれないかな。
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