幼気な君を描く

1/1
前へ
/1ページ
次へ

幼気な君を描く

「全員引いたかー?まだの奴はささっと引いて、席移動しろよー」 気怠げに伸びた担任の声を耳にしながらぼんやりと机の中にあった自分の教科書やノートを取り出す。そして右手に握っていた紙を1度見つめて、黒板を見る。 教室の1番後ろの窓側の席。 そこがくじ引きによって齎された私の新しい席だった。 変なところで運を使ってしまったな。 自分の荷物を抱えて新しい席へと移動する。 「やっぱりここの席が当たりだよな」 仲の良い子と近くになれた。1番前の席で死んだ。 様々な声が聞こえてくる中、その声ははっきりと空気の波を伝って届いた。 百瀬(ももせ) 日向(ひゅうが)。 私の頭の中でフルネームが飛び出た、あまり話したことのないクラスメイト。誰に対しても平等に接する爽やかな好青年といった印象が強い。誰からも好かれる人懐っこい性格でクラスの人気者だ。 そんな百瀬が見つめているのは明らかに私で、ピタリと体が固まった。 人と喋るのが得意じゃない私がましてや陽キャの部類に入る男の子と喋るにはレベルが高すぎる。それくらい察してくれという想いで念を送った。 「俺もだけど鳳も席運いいね。ここ、日当たりいいから授業中寝そう」 「……コミュ力おばけ、だ」 「ふはっ、何それ。俺は普通だって。そういうのは1番前の席で嘆いてる佑に言うべき」 茶色の瞳が“なんで毎回1番前なわけ!?”と叫んで皆から笑われている天宮へと向けられる。ムードメーカーな彼はあの席がよく似合うと思っているのは私だけじゃないはず。 百瀬はそれ以上私には話しかけてこずに周りの席の子と楽しそうに喋り出した。人のテリトリーに強引に踏み込んでは来ないらしい。その距離感にただ安心感を覚えた。 2学期最初の席替えは悪くはない結果になり、少し頰が緩んだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加