親友

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 目を覚ますと朝になっていた。曇ってはいるが雨は降っていない。湿度の高いいつもと変わらない朝。気持ちは重いが学校が休みだと思うと体は軽い気がする。  甲斐田さんが迎えられなかった朝。私はこんなに「生」を感じているのに。  彼女も嫌なことがあったのなら、学校なんて休んでしまえばよかったのではないか、無責任にそう思ってしまう。  宿題がないのでやることもない。仕方がないので、本を読んで過ごすことにした。あれからクラスのラインは動いていなくて、だからと言って個人ラインも来なかった。  友達が多いわけではないので、新しい情報が来ることもない。昼寝をして動画サイトを眺めて、昼過ぎになって母さんが説明会に出かけたのを玄関で見送って、ようやく、テレビをつけてニュースを見てみる。情報番組がやっていた。ヘリコプターから見下ろされる建物に見覚えがあったので、それを眺めているとなんと自分の高校だった。 『有名公立高校で女生徒が転落?事件性を視野に調査』  ショッキングな見出しが高校の建物に覆いかぶさるように表示される。 「……は?」 思わず声が出てしまった。事件性ってなんだ。自殺じゃないのか。  スマホを確認したが、ラインは来ていない。おそらく個人ラインでは『学校のことがニュースになってるよ! 』と騒がれているのだろうが、達海がいるクラスのラインでそれを流すことはできないと思ったのだろう。こんなネタになるような話題、クラスのお茶らけたやつらが見逃すはずがないのに。  背景が高校からスタジオに切り替わると、神妙な顔をしたアナウンサーたちが 「高校では詳しいことは警察の調査待ちだということでコメントは得られませんでしたが、一体何があったんでしょうか。心理学に詳しい大学教授に取材してみました」 と電話取材が行われていた。 この人に、会ってもいない彼女の何が分かるのだろう。 名前も知らない教授は 「事件性があるかは調査中ということでしたが、もちろん自殺の線も捨てきれません。高校生というのは中学生の次に不安定な時期です。進学校ということでしたので、他の学校よりも勉強は難しいでしょうし、そういうことで悩んでいた可能性もありますよね。もちろん人間関係も広がっていきますし。最近はSNSで知らない人とつながって会いに行くという高校生の事件も多くありますので、その線も捨てきれません。一体彼女に何があったのかは、彼女にしかわからないことなのです。これから調査が進んでいってわかることも増えてくると思いますが、他の生徒たちの心のケアもしっかりしていただきたいものですね」 ぺらぺらとしゃべる。  それを受けたアナウンサーは「そうですね」と真面目な顔をして頷いた。頷いたところでこの教授は薄っぺらいことしか言っていない。彼女のことは彼女しかわからない。生徒たちのケアが必要、だなんて私でも言える。結局こちらが知りたいことは何も知ることができないのだ。知っているのは甲斐田さん本人だけなのだから。 「学校では生徒たちのためにスクールカウンセラーを配置し、メンタルケアに尽力していくとのことです」 バチリ、とテレビの電源を消した。  何が、メンタルケアだ。勝手にこっちがショックを受けて病んでいるなんて設定を作りやがって。 世の中には面白がってテンション高くなんでもネタにする同級生もいる。あの人たちはとっても元気ですよ、と教えてやりたい。 まあ、そいつらのメンタルをケアしてやるのはいいのかもしれない。こういうときに不謹慎な行動をとってしまうのは何か欠落したものがあるのだから。そういう人たちと一緒に自分たちのことを「かわいそうなやつ」とくくられた気がして、気分が悪くなった。そのままソファに毛布を持ってきてくるまってまた寝た。
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