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彼女の名前は甲斐田佳代子。小学校の時は同じクラスになったこともあった。会話をしたこともあった。しかし、そこまで記憶に残るようなものはない。クラスの中でも大人しいタイプの私とは違って、甲斐田さんは活発で明るい子だった。いつも友達に囲まれてニコニコと笑顔を絶やさない。そんな人だった。
廊下ですれ違えば挨拶をしたかもしれないが、それも記憶にない。
それで特に問題もなく高校生までやって来た。それなのに、どうして甲斐田さんは私のことを親友なんて言ったのだろう。
遺書を読んでも分からない。悲しみが湧いて出てくるわけでもない。ただ、疑問符が頭の中をぐるぐる回るだけだった。
何も言わない私を不憫に思ったのか、警察官たちはその後すぐに私を開放してくれた。
何も問題は解決していないまま、私は校長室を後にする。
教室に向かおうとして、小さく聞こえる電話の音に振り返った。職員室からだ。先生たちは今回の事件でバタバタと忙しそうだ。鳴っては止まり、鳴っては止まる音からひっきりなしにかかってくることが分かる。学校の電話の回線がパンクしてしまうのも時間の問題だろう。先生たちに同情する気持ちもあるが、一方で、仕方がないよなとも思う。
なにせ今回の事件は学校で起きたのだから、取材も保護者や地域からのクレームも、しばらく止むことはないだろう。先生たちも気の毒だ。まるで自分のせいで起きてしまったかのように受け止めて謝らなくてはいけないなんて。
死ぬなら人に迷惑をかけない死に方をしたい。甲斐田さんだって馬鹿じゃない。こうなることは理解していたはずだ。それでも学校で死ぬことを選んだのは、あえて迷惑をかけたかったのだろう。
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