遺書

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 なんだあれ、一緒に行ってくれればいいのにと思っていると、 「彼ね、だいぶショックうけてるみたいなのよ」  いつの間にか後ろに立っていた間瀬さんが言った。振り返るとまさかの間瀬さんの目には涙が浮かんでいる。ぎょっとして見つめてしまう。 「それもそうよね、付き合っていた彼女が急に亡くなってしまったんだもの。悲しいのは当り前よね」  いやいや、間瀬さん。あの人は今私に付き合わないか?って言ってきたんですよ。  そう言ってやろうかと思ったが 「昨日話聞いた時なんかずっと泣き通しで……見ているこっちもかわいそうになっちゃってね……」  その姿はなんだか母さんに似ていた。もしかしてと思って尋ねる。 「間瀬さん、もしかして子どもいます?」 「いるいる。中一の息子なんだけどね、うちの子もああやって成長していくのかななんて思っちゃうわけよ。素敵な恋をして素敵な相手と結婚して……なんて夢見ちゃうのよね。でも、彼女が亡くなっちゃうなんて、本当かわいそう。ね、彼がなにか間違いを犯さないようにちょっと注意しておいてくれると嬉しいな」  間違い、後追いのことだろうか。  それを私に言うのか、私はショックを受けていないように見えたのか。私は間違いを犯さない人間に見えたのか。いや、実際に犯さないけれども。間瀬さんがうるうるした瞳でずっと見つめてくるので、仕方なく 「わかりました」 と言っておいた。
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