親友

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 達海幸弘は学校でも有名人だった。頭もよく性格もいい。背も高くて運動神経もいい彼は入学した時から人気者だった。 達海は声には答えず、顔を伏せじっと机を見つめる。なんで彼のことを呼びに来た子がいるのか分からなかったが、クラスメイト達が 「幸弘くんと甲斐田さん、付き合ってたらしいよ」 と小さな声で話しているのが聞こえた。  ここでようやく、佳代子が甲斐田さんなのだとつながった。ああ、そう言えば中学の同級生だなと思い出す。達海と付き合っていたのか。なるほどな。 彼はさっきの惨状を見たのだろうか、みんなからの視線を一気に浴びて、居心地が悪いのだろう、視線を上げることはなかった。  そのうちに遠くからパトカーや救急車の音が聞こえた。先生たちもバタバタと帰ってきて 「石倉! 教室から出るなと言っただろう。はやく帰りなさい」 先ほどの女の子はそう注意されてしぶしぶ戻っていた。 代わりに入ってきたのは私たち一組の担任である堺先生だ。  堺先生も国語を担当している、いつも落ち着いている先生だ。天然パーマの髪をくるくるとさせ、表情一つ変えず淡々と授業をする。  そんな先生が表情を暗くして、みんなの前に立つと私たちを見た。私たちも先生が何の話をしようとしているのかはわかるから、ごくりと唾を飲んでそれを見守る。 「みなさんにお話があります」 みんなは先生の言葉を一言一句聞き漏らすまいと真剣な表情で堺先生を見る。先生は大きく一回深呼吸をして 「先ほど、事故がありました。今警察の方が来ていますが、もう少ししたら下校をしたいと思います。明日からの学校をどうするかは後でメール配信をしますのでそれまで自宅待機をしていて下さい」 一息で言い切った。意外にも動揺しているようだ。視線は下を向いていていつもよりも早 口だった。 「誰が落ちたんですか?」 井上くんだ。彼は空気を読むことができないらしい。この空気でそんなことを聞ける神経を尊敬する。しかし、それはみんなが知りたいことだ。先生も聞かれることは想定していたのか 「まだ、何があったのかは調べている途中ですので言えません。みなさんもいろいろ詮索するのはやめてください」 いつも通りの落ち着いた口調に戻っていた。それからしばらくして私たちは下校することになった。クラスごとに教室を出て先生たちの誘導に従って校門まで案内される。途中で中庭を通らないように校舎裏の駐車場の方向へ案内され、徹底的に現場に近づくことは許されなかった。自転車で通っている私は駐車場横の駐輪場まで列に並んで歩き、雨がやんでいたので、カッパを着ずに自転車に跨って学校を出た。
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