親友

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家に帰ると母さんが待っていた。 「おかえり」  最近の学校は保護者にメール配信で休校情報や連絡が届くようになっている。 すでに、連絡は来ているはずだ。おそらく学校で起こったことを心配して出迎えてくれたのだろう。 「……大丈夫?」 「大丈夫も何も、何が起こったのか、こっちには何の説明もなく帰されたから」 「そうなの」  母さんはそれだけ言うと、今日は早く寝なさいと言ってくれた。 私は帰って早々、風呂に入った。別に自分が汚いとは思いたくなかったけれど、緑の芝生が真っ赤になったあの光景を思い出すと、どうしてもごしごしと自分を洗いたい衝動に駆られた。 あの血が自分の体についてはいないのに、泡を立てて体を丹念に洗う。体に触れた空気ごと洗い落としてしまいたかった。 目を取り出して洗ってしまえばあの光景を忘れて綺麗になれるのかなんて考えて、それはあの子に失礼だなと思い直した。  風呂から上がるとご飯ができていた。 「食べられる分だけでいいから」 と母さんはいつになく気を遣ってくれていて、それがありがたいやら困ってしまうやら。  ほかほかのシチューとパン。私の好きなメニューだ。熱いシチューをふうふうしながら口に運ぶ。大きめに切られたニンジンもごろごろとしたジャガイモも、いつもの我が家のシチューだ。  フランスパンをちぎってシチューにつけて食べる。ご飯にかけてもおいしいけれど私はやはりパンが好きだ。  そうやって好きなものを食べていると、もうあの子はお母さんの作った料理を食べることはできないんだなと思った。  一瞬見た惨状が頭に残っていたけれど、そのせいで食欲がないというわけでもなく、あっという間に完食してしまった。  意外に今回のことにショックを受けはいないのだな。神経図太いなと自分でも感心してしまう。 母さんはそんな私を見てほっとしていたようだけど、同じ学校の子が死んだのにいつもと変わらない自分に、私自身はちょっと嫌気がさした。
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