書籍化が決まった日

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書籍化が決まった日

 ずっと、「自分の作品が紙の本になること」を夢見てきました。  紙の本、というのが大事で、親や友達に「自分の本が本屋さんに並ぶよ」と話して、「あなたの本、本屋さんにあったよ」と言われたりして、距離を超えて作品の存在を手に取って感じてもらえる……というのにものすごく憧れていました。その夢が、かなうことになりました。  3月のこと。  子供の習い事に付き添っていました。子供達が順番に先生に見てもらうので、他の子が見てもらっている間は読書をしたりスマホチェックをしています。そんな風に過ごしていたいつも通りの時間が、なにげなく開いたメールで一変しました。 ──あれ、エブリスタからメール来てる? ──「書籍収録ご許諾のお願い」? ──は?    文面を何度も読みました。そこには、『夏空の下、狐と走る』が5分シリーズに収録されること、ついては承諾をいただきたい、という旨が書いてありました。  何回も読み返しました。 ──ええと、これって、私の作品が本になるってこと?  私、習い事見学の時は、家とは違う空気感の中、現実(子供の様子を見る)と自分の世界(読書など)を行ったり来たりするのでぼうっとしがちなのですが。  この日はいつも以上に夢見心地のまま帰宅したことを覚えています。  確かに夢が叶うことを願っていたけれど、「数年後に長編で受賞→単著デビュー」を想定していて、まさかこんなに早く、5分シリーズに収録という形で実現するとは思っていなくて、おとぎ話のようで、しばらく毎日のようにメールを見直しては「やっぱり書籍収録って書いてある……夢じゃない」と確認していました。    それから校正のやりとりがあり、読み仮名や表記ゆれの確認をさせてもらいました。PDFで、書籍のページが入った自分の作品は、久しぶりに読んだことも相まってまるで他の人が書いたように思えました。 「どうせなら、指摘をいただいたところ以外もこの際直してしまおう」と頭から読み返して、そこで……。 「えっ、この作品いいな?」と思いました。ちょっとした自画自賛です(笑)  改めて読むと「書籍になるのにふさわしい作品が書けていたんだな」と思いました。この作品は、妄想コンテスト「追いかける」で大賞をいただいたこともあり、最終ページにたくさんの温かいコメントをいただいていました。  思い返せば、「追いかける」はアイディアが文字通り降ってきた作品でした。「何を書こうかな」と思った時、田舎の青くて広い空の下、淡々と走る少年の姿が浮かんだのです。普段の妄想コンテストではいくつかアイディアが浮かび、展開を考えて取捨選択していく形ですが、今回は最初に浮かんだイメージが強くて、書きながら引っ張っていってもらえた気がします。  大賞をいただいただけでも嬉しかったのに、今回の書籍化。 『夏空の下、狐と走る』は私に二度喜びを運んでくれた作品になりました。
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