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リトル・エルネスツ
急に真面目な顔になった父親に追い出されたミラルカ・ミラ・ウィンシュタット・エルネストは、下僕を連れてコッソリ大人達の小難しい話を盗み聞きしていたのだった。
「珍しくパパが追い出すなんてね。これを逃す手はないわ」
「ミラルカ。父さんにバレたら大変だよ?」
双子の弟のウィルが言った。
「いいからあんたはスメルジャミングとメタモルフォーゼ維持してなさい。私が仕方なく認識阻害二重展開してるんだから。ふうん、スリュムヘイム?そこにいるのね?敵が。よろしい。ならば戦争だ。戦争が出来るぞ」
「何が戦争だこの馬鹿」
軽く頭をコツンされたが、メタモルフォーゼを展開中の弱点。それは、
「がはあああん!」
ミラルカはめっちゃ痛がっていた。メタモルフォーゼの弱点。
皮膚感覚の異常促進。要するに殴られただけで死ぬ。
「うわ。父さん」
「ウィルまで何だ?ミラルカ止める義務があるだろうお前には?」
「パパあああああああああ?!何でここに?!まさか!裏切ったなカスミ?!」
しれっとした顔のピクシーのカスミがいた。
「ちなみに、今立って鼻ほじってるーーあん?!俺はボガートの変装だってよ。おい」
やっぱりイタズラ妖精らしかった。
「なあミラルカ。母ちゃんが連れてきちまったが、俺は、父ちゃんは、お前達が楽しくフェアリー・ランドを楽しんで欲しいんだよ。巻き込んじまってごめんな?」
抱き抱えられた。
ふん。そう思っていたが、やがて、我慢出来なくなって父親のうなじをクンクンしていた。
パパの、力強く頼もしい、いい匂いがした。
家に帰り、ベッドに転がったが、頭の中では、今フェアリー・ランドにいるであろう父親達のことを考えていた。
全く。放っときゃあいいのに。パパどこまでお人好しなのよ。
でも、あのユーラって人、ヘイデンって奉行の奥さんなのよね。
まあ私千姫だし。大体の情報は。
エマって、ユーラの赤ちゃん?
いい匂いがしていた。赤ちゃん特有の清潔で汚れない匂い。
「ミラルカも、おんなじ匂いだったよ」
ソファーに座っていたウィルが言った。
何だ?私の思考把握していい気分か?
勇者の息子のくせに生意気な。
敵。スカディ。カスミのもたらした情報。
全てがグルグル回り、ミラルカは、ああああああ!と言って立ち上がった。
「ステラ姉さんとライルの奴に会う!それでいい?!ウィル?!」
うん。ウィリアム・リアム・ウィンシュタット・エルネストは、頭の出来のすこぶるいい、双子の姉の言葉に、嬉しそうに頷いた。
ミラルカが動かなければ、ウィルは1人で動くつもりだった。
確かに、ウィルには勇者の血が流れていて、ミラルカも一緒だと考えていた。
勇者の血族。劣勢を強いられる越中軍にとって、異世界勇者の子供達という援軍が、どういう意味をもつのか、まだまだ解らなかった。
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