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1<管理人・浮島弓子Ⅰ>
あんまり気負わず、気楽にやってください。管理会社の男性・島村は、からからと笑って告げた。
「浮島さんは運がいいですよ。マンションとか、団地の管理人とか職員の仕事ってやりたがる人多いですから。人気の仕事ってやつです。特に年配の人は、会社をやめた後とかにこの仕事を選ぶ人って結構多くてね」
「そうなんですか?」
「ええ。座ってできる仕事だし、場所にもよるけど暇なところ本当に暇だから。四六時中住人からクレームが来るってなわけでもないでしょ?たまに住人から問い合わせとか、落し物とかがあった時に対応したりすればいいだけだから」
「は、はあ……」
言われている内容は、仕事の募集要項に書いてあったものとほぼ変わらない。浮島弓子はやや男性のテンションに気遅れしつつも、これから暫くお世話になる団地をゆっくりと見上げたのだった。
徹団地、というなんだか男性の名前のような団地である。随分昔からある規模の大きな団地で、建物が建った順にアルファベットが割り振られ、現在ではA棟からH棟まであるらしい。のっぽでクリーム色の建物が、にょきにょきと空に伸びている。この角度から見ると細長く見えるが、地図が正しいのなら実際は横長、長方形の円柱と言ってもいい形状であるはずだった。どの棟にも側面にAとかBとかのアルファベットが記されている。遠くから見ても識別できるようにはなっているらしい。
「A棟ほど古いので、まあ、ちょっとボロく見えるかもしれませんけどね。うちは二十四時間交代で誰かしら管理棟に勤務してますから、まあ管理はしっかりしてる方なんじゃないでしょうか。あ、管理棟っていうのが、団地の真ん中らへんにありましてね。そこに浮島さんにはお勤めいただくことになってます。お約束通り、浮島さんは朝十時から十八時の勤務になってまして残業も基本ありませんから、ご安心ください」
「は、はい」
てくてくと団地の中を歩いていく。外から見た時は薄暗い印象だったが、実際は敷地内にスーパーや雑貨屋もあるし、子ども達が遊ぶ公園なども充実しているようだった。現在時刻が十時前時ということもあって、時折若い人や家族連れともすれ違う。
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