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2<管理人・浮島弓子Ⅱ>
確かに、この団地で人が直接死んだわけでないのなら、事故物件なんて言い方はできないのかもしれない。だからといって、この団地で人が入れ替わり立ち代わりであること、この団地を去っていった人がどんどん自殺していっているというのが本当なら、それは充分異常なことではなかろうか。
やや青ざめつつも、団地内のスーパーで買ったおにぎりをかじる。休憩時間がどれほどしっかり取れるかわからなかったので、今日はすぐに食べられるおにぎりを買っていくことにしたのだった。手作りおにぎり、なんて名称で売っているわりには、米が硬くてあまり美味しくない。何より入っているシャケの量が貧層な気がする。これは多少手間がかかっても、家から弁当を作ってくるべきだっただろうか。
「……その」
ふと、弓子は気づいたことがあったので口にする。
「えっと、遠藤さんはここ、一年くらいは務めてるのよね?」
「ん?まあそんなところですかね。だから偉そうに言うほど先輩とかじゃなくて申し訳ないんだけど!」
「その。……ということは、私の前の管理人さん……っていう名前の、単なる受付担当だけど。その人とは、顔を合わせたことがあったのよね?」
「あー」
受付にただ座っていて、住民が相談に来た時だけ対応すればいいという実に暇な仕事。電話も基本自分は出なくていいと言われている(正確には、万が一オフィスに誰もいなかったら引き継いでくれと言われているくらいだ)。はっきり言って、この仕事で初任給が二十六万円を超えるというのは相当実入りがいい気がしている。むしろ、良すぎるくらいだ。東京ではもっと毎日あくせく働いて、月給が二十万を下回る中疲れ切って家に帰る若いサラリーマンやOLなんていくらでも溢れていると聴く。だからこそ、いくら管理人という仕事が“高齢者向け”と言われるものであり、若い人の応募は基本断っているのだとしても――七十歳という高齢の弓子が採用されたのは、かなり幸運だとしか思えないのだ。
つまり、たまたま前任者がやめたばかりで、求人が出てすぐのタイミングだった、とか。
「そうですね、前の管理人さん……田岡哲さん、だったかな?」
あむ、とサンドイッチに食いつく彩加。どうにも食べながら話すのがみっともない、という認識はないらしい。まあ、弓子もそんなに気になる方ではないのでいいのだけれど。
「田岡さんもそういえば、突然この仕事やめちゃったんですよね。なんていうか、結構楽しんで仕事してる印象だったから、ちょっと不思議だなーとは思ってたんだけど」
「人当たりのいい人だったのね」
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