13<B棟906号室・鈴村麗美Ⅲ>

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 あまり管理棟に立ち入ることはない。なんとなく突っ込んで口を挟んでしまった。遠藤彩加、と言う名前の女性が自分と似たタイプの、なんとなく話しやすそうな人物に見えたからかもしれない。 「あーその。……今日来た新しい管理人さんが、倒れちゃって。おばあちゃんだったからかなあ」  彼女は困ったように頭を掻きながら言った。 「今日から受付担当が新しい人になるはずだったんです。前の担当さんはご存知ですか?田岡さんっていうおじいさんだったんですけど」 「あー……そういえば、ここに引っ越してきた時にご挨拶したような」 「そうそう。その人がやめちゃったから、今日から新しい管理人さん。まあ、うちの会社……というかこの団地の担当も入れ替わり激しいから、あんまり覚えられないかもしれないですけどねー」  はっはっは、と笑う彼女はきっとフレンドリーな性格なのだろう。ただ、その入れ替わりが激しい、という言葉が麗美に刺さっただけだ。そういえば、あの女の子は今日宅急便のおじさんの後ろに立っていた。この団地に一歩でも足を踏み入れたなら、多分住人でなくても“憑りつく対象”になるということだろう。ということは、その田岡という管理人も、そうだったのではないか。 「その田岡さんって、生きてらっしゃいますか」  つい、そんな言葉を零してしまった。ここの住人は、引っ越してから一年以内に自殺する、という謎のルールがあるらしい。ひょっとしたら、ここに勤務していたその男性も、と。 「え?どうだろう?結構なお年だったからなあ……」  が、遠藤彩加はそう首を傾げるにとどめた。良く考えてみれば真っ当な反応だ。会社をやめた元同僚がどうなったのか、なんてよほど親しくしていなければ知らなくても無理はない。  が、そこで事務室の自席に座っていた、さっき主任と呼ばれていた男が余計なことを言った。 「亡くなったらしいですよ、田岡さん」 「え、そうなんですかあ?」 「うん、どうして死んだか知らないけど、お年だったし老衰じゃないのー?」  二人は暢気にそんなことを話している。が、どうして死んだか知らない、も年だったから、も麗美にとってはまったく救いにならない言葉であるのは間違いなかった。目の前がじんわりと暗くなってくるのを感じる。自殺だった可能性が、ある。それだけでもう、一度思い込んでしまった事実と結び付けずにはいられなかった。 「あの、その」
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