13<B棟906号室・鈴村麗美Ⅲ>

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 ひょっとしたら、自分が思っているより猶予はないのかもしれない。視線を彷徨わせながら麗美は口を開く。 「この団地処刑人っていうのがいるんですよね。そういう悪霊が憑いてるっていう噂があるんですよね。お祓いとか、しないんですか。実際に人が死んでるかもしれないのに」 「え」 「その、悪霊。ひょっとしたら……あさくらかおるちゃん、って名前の女の子だったりしませんか?」 「んー?」  女性は本当に心当たりがないらしい。が、主任の方はやや眉をひそめた。そして立ち上がり、受付に近づいてくる。 「困りますよ、そういう噂を真に受けられるの。実際にこの団地で人が死んだわけでもないんですから。お祓いなんて堂々と呼んでやったら、ますます風評被害に繋がるじゃないですか」 「で、でも」 「勘弁して下さい、こっちも仕事なんです」  本気で困惑したように言われてしまったら、麗美もそれ以上食い下がることはできなかった。自分には見えてるんです、なんて言える空気ではない。そもそも、まったく何も感じない、信じない人間にそのテの地縛霊の悪性を説いたところで何の効果もないのは目に見えている。  何その態度、と少しばかり腹も立ったが、彼らの立場もわからないわけではない。結局、それ以上頼み込むこともできないまま麗美は管理棟を去ることになった。こうなったら、自分で神社にでも行ってお祓いを頼んでみるしかないだろうか。悪霊が憑いているのが自分ではなく団地だというのなら、自分を祓ってもらってもなんの意味もないのだけれど――。 「!」  団地の出口まで歩いていこうとした、その時。  敷地内にある公園にそれとなく目を向けて、麗美はぎょっと立ち止まることになったのだった。 「な、んで」  少女が立っている。  公園の中心に、あのピンクのワンピースの女の子が――はっきりとこちらに視線を向けて。そして。  彼女の足が動いた。こちらに歩いて来ようとしている! 「や」  まさか、次は自分の番だとでも言うのか。突然全身を震えるほどの恐怖が支配した。足をもつれさせながらも、団地の外に出ようと走る。まだ日が落ちてもいない時間。それなのに、妙に外が暗いのは何故だろう。というか、管理棟を出てから他の誰ともすれ違わないのは偶然だろうか。  団地の出口のすぐ横、いつも使っているスーパーが見えてくる。あの自転車置き場の横を抜けたらすぐだ、と足を早めた。外に出ればきっと安全だと、それだけを信じて。しかし。 「ぎゃっ」
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