噓とエッセイ#6『爆弾』

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 だけれど、私には勇気というものがひとかけらも備わっていない。まるで神様が生まれたときに、抜き取ってしまったかのようだ。それはつまり、爆発前に自分で幕を引くことができないことを意味する。  この三階の窓から飛び降りることも、家に一本しかない包丁で、頸動脈を切断することもできないのだ。  理由は決まっている。痛いからだ。成長するために必要な痛みからことごとく逃げてきた私は、死の瞬間でさえ、痛みを拒絶する。  だから毎晩、寝るときには、このまま二度と目を覚まさないのが理想だなと思って目を瞑る。なんとも情けない。  それにあと二年半で、何かを成し遂げることができるだろうか。こんな長所も美点も特徴も何もない私が、何かを残すことができるだろうか。世界は甘くないというのに。  だから、私は努力を放棄する。改善を放棄する。どうせあと二年半で死ぬのだ。何もできないまま死ぬのだ。  これを読んでいるあなたは、ずいぶん厭世的な価値観だと思うかもしれない。  だけれど、たった二十数年ほど前には、多くの人が何をしても意味がないと思っていたはずだ。  ノストラダムスの大予言。  恐怖の大王が降臨して、地球は滅亡するというでっちあげは、当時多くの人々をパニックに陥れたことだろう。私はその頃、  まだ指をしゃぶっているような子供だったから覚えていないが、漫画で読んだことがある。ノストラダムスの大予言を信じた主人公が、どうせ一九九七年の七月に地球は滅亡するのだから、それまでは好き放題、楽に生きると宣言して、周囲を困らせる話だ。  最終的に彼女は、親から怒られて目を覚ましたが、私の悪夢はまだ醒めていない。爆発するまでずっと続くのだろう。息をするのでさえ、嫌になってきそうだ。
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