噓とエッセイ#6『爆弾』

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 となると、浮かんでくるのは幾千回とフィクションで使われた常套句。「あなたを殺して私も死ぬ」だ。  別に私には殺したいほど憎んでいる人間はいない。殴りたいほどうざったく感じる人間はいるけれど。  本当に誰だっていい。多くの加害者が言う「誰だっていい」は主に女性や子供に限定されるけれど、私の場合はボクシングの世界チャンプでもヤクザでも別に構わない。  だって同時に私も死ぬのだから、報復の心配がいらない。怯えることも何もない。ただ、人の集まるところに行って日付が変わった瞬間にバーン。簡単なことだ。  そういえば、先日電車で放火と、殺人未遂を犯した彼は、死刑になるのだろうか。  確か「死刑になりたかった」と供述したというニュースを見たことがある。それを目にして、思わず私は「分かる」と呟いてしまった。  だって、私もまた自殺する勇気がないのだから。誰かが、私の場合は爆弾に仕掛けられた時限装置だが、手を下してくれるなら、こんなに楽なことはない。  死ぬ日時がはっきりしている今の私は、まるで死刑囚の気分だ。一日一日を牢屋のような家と、監獄のような会社の往復で潰している。刑務所暮らしの方がまだましな日々だと思う。  そもそも今の私だって、半分税金で生かしてもらっているようなものだから、その割合が変わるだけだ。
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